未来への種まき~伝え続ける語り部プロジェクト~


吉田哲朗さん「ふくしまにいて思うこと」


吉田哲朗 岩手県花巻市出身 福島大学人間発達文化学類3年 

震災が起きた当時私は大学1年生の春休みを謳歌していました。アメリカ旅行中に地震が発生し、TVで津波の映像を見ていました。母親から無事を知らせるメールが入っていたため、家族の心配は減ったものの、とても心配になりながら日本へ帰る飛行機に搭乗した記憶があります。

あれから1年半以上の月日が経ち、福島は世界で通用するネームバリューを持つようになりました。振り返ってみると、私がある種の覚悟を決めたのは、2011年4月に岩手県大槌町でのがれき撤去ボランティアに参加した帰りのバスの中だったと思います。30人がかりで作業して、1件の家のがれきをやっとの思いで撤去しました。自分個人の無力さに気づきつつも、「それでもなにかやっていかなきゃならない。特に福島では。」そんなことを帰りのバスで思っていました。自分にできることはわからないけれど、福島大学に戻って何かしていかなきゃならない。そんな覚悟ができあがっていました。

なぜ、福島にこだわるのか。正直、福島大学に在学してなければ私は自ら活動をしようとは思わなかったと思います。誤解を恐れずに言うと、福島は世界でも他にはないほど社会問題が見えやすい特殊な地域と化し、そこでチャレンジしていくことが結果として他の地域にも影響を及ぼすのではないかと思っています。そのような環境にいるからこそ、「行動していかなきゃない」と自分自身に言い聞かせることができているのだと思います。

この夏私が取り組んできた1つのプロジェクトがあります。“福島を感じて考えるスタディーツアー「スタ☆ふく」“といって、水産・漁業(いわき市)、観光(喜多方市)、農業(二本松市)の3つのテーマごとに1泊2日のツアーを行いました。背景として3つのことがありました。1つは県内の取り組みや、現状があまり知られていないということ。いわきの漁師さんたちが本業である漁ができずに落ち込んでいるという話をその娘さんから聞いたのが強く私の印象に残りました。2つめは、ふくしまに関心を持ちつつも、関わり方を見いだせない人々が多くいたということ。「福島って大変そうだよね。」これが県外の友人から言われる言葉でした。そりゃ確かに大変だとは思うのですが、いまいち何が大変なのか分からないまま言われているような気がしていました。3つめは、なによりも自分たちが福島に対して何かしたいという想いが強かったということです。福島から変われば社会は変わっていくのではないか。そんな簡単に行くものではないでしょうが、私はそれを信じて行動しています。

私が目指していたのは、参加者と地域の人の両方が喜びを持てるような企画を作ることでした。地域に住む人の取り組みを見て、参加者が元気づけられる。参加者に現状を理解してもらうことで、地域の取り組みが共感され、情報が広がっていく。そんな企画が実現できましたし、向上の余地があると思っています。

「スタ☆ふく」は多くの方の協力がなければ実現しませんでした。旅行代金として2万円弱の料金設定になっていたのですが、1泊2日のバスツアーでこの値段は結構なものです。(特に学生にとっては。)参加募集〆切まで残り1週間となった時も、催行に必要な人数が20名ほど足りていませんでしたから、こちらとしては必死に広報をします。その熱意からか、ソーシャルメディアを通しての拡散も広がっていき、結果としてツアー催行が決まりました。これは私にとってとても大きな経験で、人は想いによって動くという確信を得ることができたのです。

20代という若い年代の私だから持つ意見かもしれませんが、震災を受け止めて次に向けてアクションをしていかなければならないと考えています。そして、福島にいる学生(将来を期待される存在であり、時間もあり、若さがある)だからこそ社会に対してできることを見つけながら取り組んでいきたいと思います。学生は座学だけしていれば良いというような時代ではありません。福島においては、すぐにでも必要とされている環境に身を置いていると思っています。この先チャレンジの連続でしょう。時にはつらいことだって、失敗することだってあるでしょうが私は周囲の人に支えられていますし、自分よりもつらい人はたくさんいるという想いでやっています。あきらめたら負けだと思ってやっていこう、そして若い力で福島を元気にしていければなぁと、そんなことを思うのです。

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